もくじ
インプラントの失敗やデメリットについて
ここでは皆さんにインプラントの失敗・トラブルに関するお話をさせていただきます。
「インプラントはやめようかな」と思うような内容も含まれていますが、インプラント治療を考えている皆さんにはぜひ知っておいて頂きたい内容です。
インプラントの失敗を3つに分類して解説しています。
①誰にでも起こりうるインプラントの失敗・トラブル
②インプラント手術の失敗
③歯科医師の説明不足または患者さんの期待度が高かったために起こるトラブル
インプラントは生体にとってあくまでも異物です。歯ではありません。メリット・デメリットをよくご理解いただいた上でインプラント治療をお考えください。正しい知識として受けとめていただき、お体に関する大切なことですから慎重に。このサイトが皆さんの生活・健康を支える一助となれば幸いです。
誰にでも起こりうるインプラントの失敗・トラブル
代表的なものにインプラント周囲炎・インプラントの脱落があります。
インプラントの周囲には歯と同様、プラーク(細菌のかたまり)が蓄積して、歯肉炎を発症させます。
これがさらに進行していくとインプラント周囲の骨は骨吸収を起こし、そしてインプラント脱落へとつながります。いつも清潔な状態にしていれば炎症は起こりにくいのですが、ブラッシングが悪くて汚れが長期間付着したり、体が弱って感染しやすくなっている状況では、生体防御のバランスが崩れて炎症・骨吸収が起き、悪化していきます。プラークコントロールを強化することによって進行のスピードを遅くすることも出来ますが、現代医学ではこの進行してしまった炎症・骨吸収を完全に止める治療法は、残念ですがインプラント体の除去しかありません。無症状であれば積極的に除去する必要はありませんが、何か症状があれば除去を考える必要があります。
インプラント体は骨との結合を良好にするためその表面はわざとザラザラに加工してあります。
ザラザラなので骨となじみやすく強固な結合をする反面、少しでも露出してくると、ツルツルしている清掃しやすい表面性状ではないので、プラークの繁殖しやすい場所になってしまいます。
半世紀前に開発されたインプラントの表面はツルツルしていました。ツルツルした表面のインプラントはインプラント周囲炎を起こしにくい半面、骨との結合力に劣ります。
世界中の多くの研究者が、さまざまな表面性状のインプラントを開発し続けていますが、インプラント周囲炎を起こさずに骨と強固に結合するという理想のインプラントは、未だに開発されていません。「インプラントは細菌感染する」と言う事実は残念ながら多くの研究により立証されていますので、プラークコントロールは非常に重要です。
さらに炎症・骨吸収が進行しているインプラントに過大な咬合力が加わると、今度はインプラントの脱落へとつながります。
天然歯は骨と直接結合している訳ではなく、歯根膜というクッションを介して骨に結合しています。一方、インプラントは骨と直接結合しているため、まったく動きません。もし残っているインプラント以外の歯が失われたり、移動したり、磨り減った場合などはどうなるでしょうか?骨と直接結合しているインプラントのみに咬み合わせ全体の力が集中してしまいます。つまりお口全体の管理を怠るとインプラントに過大な力が加わってしまうことになり、これがインプラント脱落の原因となります。定期健診はそうした危険な状況を早期に発見する意味でも重要です。もしインプラントがだめになり除去することになってしまった時、インプラントを除去した後に骨がまだ残っていれば再びインプラント治療が可能ですが、骨が少なければブリッジか入れ歯で再治療をしなくてはなりません。インプラントはデリケートな治療です。あくまでも適切な治療・材料・管理によって治療された場合にのみ、長期間にわたって人々に恩恵をもたらしてくれます。
インプラント手術の失敗
手術時の血管や神経の損傷
神経を損傷してしまうと麻痺や感覚異常が合併症として現れます。また、血管の損傷は大量出血を引き起こしてしまうことがあります。CTが普及していなかった頃は、従来のパノラマレントゲン(2次元画像)のみでの診断・手術が主流でした。2次元画像では骨の形が平面的にしか判らないため一部盲目的な手術になってしまいます。しかし、CTが発達した現在では、立体的に骨の形態を把握できるため、血管・神経の損傷は十分防止可能です。また、インプラント埋入位置や埋入方向の極端な不良は、人工歯を入れる段階になって形態的な問題(特に前歯部領域)を引き起こす事があります。これはインプラント・シュミレーションソフトなどで計画することにより避けることが出来ます。
上顎洞粘膜の損傷・炎症
上顎奥歯の手術は上顎洞という空洞に接近します。骨が十分ある方は全く問題ありませんが、骨の量が少ない場合、上顎洞の粘膜を押し上げてそこに骨移植材・インプラントを埋入します。粘膜は非常に薄くて破れやすく、炎症も起こしやすい組織です。
起こりえる失敗としては粘膜の損傷による手術の中止、インプラントや移植材の上顎洞内への脱落や上顎洞の感染などがあげられます。上顎洞まで達すると耳鼻科の治療が必要になるケースも考えられます。残念ですがこれらを100%防止する手術方法は現在のところありません。リスクを含めた歯科医師との相談、メリット・デメリットの判断が必要です。
手術後の感染
手術後の腫れは通常問題ありませんが、細菌感染を起こしている場合は抗生剤の追加投与、場合によってはインプラント体や移植材の除去が必要です。感染のリスクを減らすために手術は清潔な環境下で慎重に行われるべきです。
歯科医師の説明不足または患者さんの期待度が高かったために起こるトラブル
① 審美障害…前歯のインプラントは慎重に。
インプラントの美しい仕上がりは骨や歯肉の条件に左右されます。良好な条件が整っていないと天然歯と区別できないほどの美しい仕上がりは期待できません。もしも患者さんの期待している仕上がりと歯科医師の予想が異なっているのにもかかわらず治療が進められた場合、目立つ部位がゆえにトラブルになりやすく、審美性の回復にはかなりの時間と努力を要します。場合によってはインプラントの除去が必要です。
歯肉は経時的にも変化を起こしますので治療法について歯科医師とよく話し合う事が重要です。
それぞれに利点、欠点はありますが現在では、抜歯即時埋入・ソケットプリザベーション・骨造成(GBR)・骨移植・結合組織移植(CTG)・ルートメンブレンテクニック・ノンメンブレンテクニックなど審美的に良好な治療結果を得るため様々な治療法が実施されています。また、前歯の多数歯にわたる欠損は口唇の張り具合や発音に影響を与えます。
お顔の表情にかかわることですから特に女性にとっては大問題です。ゴールをみすえて治療を進める必要があります。これらはインプラント失敗とは少々分類しにくい分野ですが、患者さんにとっては大きな失望になりえます。
② 奥歯の場合…前歯よりも機能性を重視
通常、歯を失うとそれを支えている骨はその形態を自然に変え細く短くなります。理想的な量の骨や歯肉が存在すれば問題ないのですが、やせた骨や歯肉にインプラントを埋入して人工歯を作る場合、どうしても形態的不調和が生じてしまいます。通常は問題になりませんが、健康であったころの歯と比較すると食べ物がつまりやすくなったり、頬や舌を咬みやすくなったりすることがあります。しかし、インプラント治療をすることで強く咬めるようになり生活のクオリティーがあがるためデメリットよりもメリットが勝る部位です。
以上、代表的なトラブル・失敗について記述いたしました。インプラントはあくまでも人工物であり、インプラント治療は、決して天然の歯が元どおりになるような完璧な治療ではありません。しかし、丁寧な治療のもとで行われたインプラントの10年成功率は95%、20年成功率は約89%です。インプラントは世界中で何千万人もの患者さんに恩恵をもたらし、我々歯科医師や開発事業者は失敗率を下げるために日々努力し続けています。
最後に私が尊敬する師の言葉です。
「科学とは、積み重ねが可能なものである。これまでに多くの偉大な先人たちが何十年もかけて築き上げてきたデータや知見を理解し、確立されてきた技術を忠実に守れば、我々は彼らと同レベルの高い水準で治療を開始できる。不適切なインプラント治療は生体に受け入れられない。我々は"生体は歯科医師よりもかしこい”という事実を肝に銘じて診療に当たらなければならない」
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